5.特別法による不法行為責任…失火責任法
■「失火の責任に関する法律」は、「民法709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときは此の限りに在らず」と規定しています。
この法律は,木造家屋が多い日本特有の事情から、明治時代に議員立法により制定された法律です。不法行為の成立要件を加重したもの(重過失の場合のみ責任を負うことを定めたもの)であり、加害者にとっては不法行為責任が軽減されることとなります。
民法709条(一般の不法行為責任)に対する特別法であり、債務不履行には適用されません。したがって、借家人が失火により借家を焼失させたときは、通常の過失による場合であっても債務不履行による損害賠償責任を負うことになります。

■「失火」とは
失火とは過失による「火災」であり、単なる「火」ではありません。従って、タバコの火で絨毯に焼け焦げをつけてしまったといった「火災」に至らないような場合は、「失火」にはあたりません。なお、「爆発」については、判例・学説は一致して「失火」に含めず、失火責任法の適用はないものとしています。

■「重過失」とは
重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法や有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指します(判例)。
6.特別法による不法行為責任…製造物責任法
1、製造物責任法の目的
製造物責任法は、責任原則を「過失」責任から「欠陥」を要件とする無過失責任に転換することにより、被害者の保護を図ることを目的としています。
消費者が購入した商品の欠陥により対人、対物事故等の拡大損害を被った場合(例えば、テレビが欠陥により発火し、家全体を燃やしてしまったような場合)に損害賠償請求をするためには、従来は、消費者が加害者に過失があったことの立証責任を負っており、損害賠償の請求は、事実上かなり困難でした。
製造物責任法は、被害者が製品に欠陥があったことを立証すれば、加害者の過失を立証せずとも責任を認めることにより被害者の保護を図っています。

2、 製造物の範囲
「製造物」とは、製造または加工された動産をいいます。
「製造」とは、原材料に手を加えて新たな物品を作り出すことです。「生産」よりは狭い概念で、いわゆる第二次産業における生産行為を指し、農産物等の一次産品の産出やサービスの提供は含みません。
「加工」とは、動産を材料としてこれに工作を加え、その本質は保持させつつ新しい属性を付加し、価値を加えることです。

3、 欠陥の定義
「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいいます。
欠陥の存在については、以下の事由およびその他の製造物に係る事情を考慮して判断されます。
a.製造物の特性
b.通常予見される使用形態
c.製造業者等が製造物を引き渡した時期

4、 責任主体
a.製造業者、輸入業者
製造物を業として製造,加工又は輸入した者は、製造物責任法上の責任を負います。ただし、部品または原材料の製造業者は、その部品の欠陥が完成品の製造業者等の設計・指示に従った場合で、かつ、その欠陥が生じたことに過失がないときは、責任を負いません。
b.表示製造業者
製造業者もしくは輸入業者として表示した者、または製造物の製造、流通の実態等により、消費者からみて製造業者とみられるような表示をした者は、責任を負います。
c.販売業者
販売業者は、製造業者と同等の製造物責任を負うべき根拠が乏しいこと、契約責任によって解決が可能などの理由で製造物責任法に基づく責任は負いません。ただし、債務不履行(安全な製品の引渡しを怠った)や不法行為に基づく過失責任は負っています。

5、 開発危険の抗弁
製造物を引き渡した時における科学または技術に関する知見では、製造物にその欠陥があることを認識することができなかった場合には、製造業者等は責任を負いません。

6、 賠償されるべき損害の範囲
引き渡した製造物の欠陥によって他人の生命、身体または財産に生じた損害が賠償の対象となります。ただし、対人事故や製造物以外の財物に対する損害を伴わない限り、製造物自体の損害は、製造物責任の対象とはなりません(民法の瑕疵担保責任(570条)や債務不履行責任の対象となります。)。